ハノイの公園文化
ハノイでは、朝5時台から公園がにぎわいます。太極拳やエアロビを楽しむ人、バドミントンをする高齢者、ジョギングや犬の散歩をする若者まで、まさに市民の生活の一部。日本の「静かな公園」と違い、活気に満ちた“コミュニティ空間”です。
ハノイの公園は、日本のように「静かに自然を眺める場所」というより、人々の生活そのものが息づく“街のリビングルーム”のような存在です。
朝5時、まだ薄暗い時間から太極拳やエアロビクスを楽しむ人々の音楽が響き、昼は木陰で将棋やチェスを指すお年寄り、夕方になると家族連れが集まり、子どもたちの笑い声が絶えません。
社会主義時代に整備された古い公園から、近年再開発で生まれたモダンな公園まで、ハノイの公園はそれぞれに個性があり、「世代と文化が交わる場所」として長く愛されてきました。
都市化が進む中でも、こうした緑地が市民の心の支えであり、在住外国人にとっても日常のリフレッシュ空間となっています。
この記事では、Công Viên Bách Thảoやトゥーレ公園、Cầu Giấy公園、Hoa Binh公園など、ハノイを代表する公園の魅力と、それぞれの街並みとの関係を現地の生活目線で紹介していきます。
Công Viên Bách Thảo(ハノイ植物園)

- 周辺環境・雰囲気: ハノイ旧市街の北西、ホーチミン廟や大統領府の裏手に位置する歴史ある植物園です。周囲は官公庁や住宅街で比較的閑静な雰囲気ですが、一歩園内に入ると緑豊かな「都会のオアシス」です。100年以上の歴史を持ち「ハノイの緑の肺」と称されるだけあり、高木が生い茂る涼やかな空間が広がっています。街の喧騒を離れ、新鮮な空気と木漏れ日の中でリラックスできる場所として地元住民に親しまれています。
- 広さ・内部構造・設備: 園内面積は現在約10ヘクタールで、フランス統治時代に世界各地の熱帯植物が集められた経緯から、ヤシやバニヤン樹など多彩な樹木が生い茂る「小さな熱帯雨林」のような公園です。中央には小さな湖(かつて「琴の湖」と呼ばれた)と小島があり、木橋で渡れるようになっていましたが老朽化により一時立入禁止になるなど改修が課題です。園内には曲径回廊の散策路が巡らされ、各所にベンチや彫刻、築山の上の小祠堂など趣あるスポットがあります。なお小規模ながら鳥やクジャク、サルを飼育する檻も残されており(動物園だった名残り)、訪れた子供達の目を引いています。基本設備はシンプルで遊具など大規模な遊び場はありませんが、そのぶん自然のままの静けさが保たれています。
- 遊歩道・安全性・子供向け: 園内の遊歩道は木陰に包まれ土や石畳の柔らかい感触で整備され、ジョギングや散歩に適しています。古い公園ゆえ一部舗装の傷みも指摘されていますが、2023年以降大規模改修予算が投じられる計画があり改善が期待されています。朝晩は地元の高齢者が太極拳(太極拳)や体操を行う姿も見られ、安全面でも特に問題なく子供連れでも安心して歩ける穏やかな環境です。遊具こそありませんが広場や芝生も点在し、小さな子供が走り回ったりボール遊びをする余地は十分にあります。園内は終日スタッフが巡回し清潔に保たれており、入園料は格安(5,000ドン程度)で気軽に立ち寄れるのも魅力です。
- 地元住民の利用状況: 観光地というより生活公園としての色合いが強く、平日でも朝夕には多くのハノイ市民が訪れます。早朝6時前後には太極拳やラジオ体操、バドミントンに興じる中高年が集い、夕方には仕事帰りの人々が散策やジョギングで汗を流しています。木陰のベンチではチェスに熱中するお年寄りやお喋りを楽しむ人々もおり、都会の喧騒を忘れてリラックスできる憩いの場となっています。週末になると家族連れも増え、子どもたちは池の亀や魚を眺めたり広場で走り回り、大人達は緑に囲まれて読書やピクニックを楽しむ光景が見られます。観光客にとってもハノイの日常生活を垣間見られるスポットであり、まさに地元に密着した癒しの公園です。
Công Viên Thủ Lệ(トゥーレ公園/ハノイ動物園)

- 周辺環境・雰囲気: ハノイ市内中心部から西へ約5km、バーディン区グエンカインカイン地区に位置する公園で、一般にはハノイ動物園(Thủ Lệ Zoo)として知られます。周囲はキムマー通りやダーオタン通りなど大通りに囲まれ、近隣にはロッテセンターや在外公館、大型ホテル(デウーホテル)も立ち並ぶ都市部の一角です。交通量は多いエリアですが、公園内に一歩入れば大きな池と古木の茂る緑地が広がり、周囲の喧騒を和らげています。公園名「Thủ Lệ(守れし涙)」の由来は、涙の形をした湖を抱えていることからで、その伝説的な名前が示すように市民に親しまれる憩いのスポットとなっています。週末には家族連れで賑わい活気がありますが、平日は比較的ゆったりしており、都会の中の安らぎを提供しています。
- 広さ・内部構造・設備: 総面積約29ヘクタールの広大な敷地で、そのうち6ヘクタールほどは中央の涙型の湖が占めています。湖の周囲には幅広の遊歩道が巡らされ、ボートに乗れる桟橋も整備されています。陸地部分には1970年代開園当初からの動物園エリアが広がり、ライオンやトラなどの猛獣からサル、鳥類、爬虫類まで約90種・800点の動物が飼育されています。園内各所に売店やトイレが整い、子ども向けのミニ遊園地も併設されています。例えば小さな電車やメリーゴーラウンド、ボールプール、5Dシアターなどの有料アトラクションがあり、動物以外の楽しみも提供しています。また木陰も多く夏場でも比較的涼しく、ベンチに腰掛けて湖風に当たる大人も多いです。園内には日本から寄贈された桜の木もあり春には花見も楽しめます。全体として古い施設ゆえの素朴さは残るものの、緑と水辺と動物に囲まれたファミリー向け公園となっています。
- 遊歩道・安全性・子供向け: 園内には湖畔を一周する形で歩道があり、適度な起伏もあってウォーキングや軽いジョギングが可能です。道幅は広めで舗装されており、ベビーカーや子供連れでも移動しやすくなっています。動物園部分は柵や仕切りが整備され子どもが勝手に危険エリアに入らないよう配慮されています。大型遊具のエリアは地面に人工芝やマットが敷かれて安全性が高く、年齢別に小児用(5歳以下)・児童用(5歳以上)・大人用の3ゾーンに分けられているため、年齢に応じた遊び場が確保されています。公園自体の開園時間は朝7~8時から夕方18時までと制限があり、夜間の立ち入りはできません(園外の歩道は通行可)。入口で大人3万ドン・子供2万ドンの入園券購入が必要ですが、場内の治安は良くスタッフも巡回しているため安心して過ごせます。ただし施設の老朽化で一部遊具の破損も指摘されており、子どもを遊ばせる際は保護者が見守ることが推奨されます。
- 地元住民の利用状況: トゥーレ公園は日常的な運動場というより、家族レジャー目的で利用される傾向が強いです。近隣の住民は朝の開園直後に園内を散策したり湖畔で体操する方もいますが、入場料がかかることもあり日々の運動には他の無料公園が選ばれる傾向があります。一方、週末になると子供連れの家族が動物見学や遊具遊びを楽しみに集まり、子どもたちは動物に大喜びするものの長時間いると飽きる場合もあるようです。それでも園内では親子でゆったり歩いたり芝生でお弁当を広げる姿も見られ、市民の憩いと娯楽の場として機能しています。特にハノイ市民にとっては子供の頃の思い出の場所という人も多く、8X・9X世代(1980~90年代生まれ)の郷愁を誘う場所でもあります。イベント的に学校遠足や会社のレクリエーションで訪れるケースもあり、日常的というより「家族サービス」や「子供の学び」の場として愛される公園です。
Công Viên Cầu Giấy(カウザイ公園)

- 周辺環境・雰囲気: カウザイ公園はハノイ西部、新興住宅地のDich VongエリアのDuy Tan通り沿いに位置する中規模公園です。周囲は「シリコンバレー地区」とあだ名されるオフィスビル街や高層マンションが立ち並びますが、公園内は緑地と池が組み合わさった開放的な空間で、近隣住民の憩いの場となっています。無料開放の公共公園であり、朝5時頃から夜22時過ぎまで(冬季は21:00)出入りが可能なため(季節により多少変動)、一日を通じて地元の人々で賑わいます。周囲には屋台や露店も出ており、公園正面ゲート付近ではソーセージやアイスクリーム、サトウキビジュースなど手軽なスナックを買うこともできます。全体に清潔で治安も良く、都会のビル群に囲まれながらも緑と水の景色が楽しめる「街中のオアシス」として人気です。
- 広さ・内部構造・設備: 面積は約6.5ヘクタールと市内公園としては中規模ですが、園内は三つのゾーン(子供の遊び場、スポーツエリア、広場)に分けられ機能的に整備されています。中央には澄んだ水をたたえた池があり、なんとホタルが生息しており、夕暮れ時にはうっすらホタルのあかりを観察することも出来ます。
その周囲を散策路が一周しています。子供向けの遊び場には日本でもお馴染みの近代的な遊具が充実しており、滑り台・ブランコやネットクライミング遊具など年齢別に分かれた遊具エリアが二ヶ所設けられています。地面は柔らかな人工芝が敷かれていて転んでも怪我しにくく、安全面に特に配慮されています。
スポーツエリアには屋外ジム器具や足腰を鍛える健康遊具が多数配置され、無料で誰でも利用可能です。さらにバドミントンやミニサッカーができる広場もあり、朝夕には住民が集まって存分に体を動かしています。園内中央の広場(イベント広場)は噴水や花壇が整備された開放的な空間で、週末には子どもたちがローラースケートを楽しんだり、高齢者がダンスエクササイズをしたりと年代を問わず賑わいます。公園の東側には静かに過ごせる芝生エリアやベンチも配置され、カップルや学生が談笑したり読書する姿も見られます。
- 遊歩道・安全性・子供向け: 全周約1kmほどのジョギングコースがあり、早朝から多くの人がウォーキングやランニングを楽しんでいます。歩道はきれいに舗装され、照明も設置されているため夜間でも一定の明るさが保たれ安全です。特に夕方以降は家族連れが多く、公園全体が活気に溢れるため防犯上の不安はありません。子供向け設備の充実ぶりが市内でも屈指と評判で、2013年に日本製遊具を導入した無料の児童遊園区を整備して以来「子供天国」とも称されています。(現在は遊具が新しいものにバージョンアップ)遊具の安全管理も行き届いており、定期的にメンテナンスされています(※10年経過し老朽化も進んだため2025年に大規模改修)。園内は見通しが良く迷子になりにくい設計で、公園スタッフや自主的なボランティアがパトロールをする姿もあります。入口も複数ありますが園外への飛び出し防止柵があるため、子供が勝手に道路に出る心配も少なく安心です。
- 地元住民の利用状況: カウザイ公園は近隣住民の日常生活に密着した公園として非常に人気があります。無料で開放時間も長いため、早朝5~6時には中高年のグループが集まり音楽に合わせたエアロビクスや太極拳に興じ、出勤前のひと汗を流す場になっています。夕方5~7時は一層賑わい、仕事帰りの大人がジョギングをしつつ、子ども達は遊具や広場で元気に遊び回ります。週末ともなれば遠方(郊外)からも家族連れが訪れるほどで、「市内にもっとこうした子供向け公園があれば…」との声が上がるほどです。公園内では地域のコミュニティも形成されており、朝の体操仲間や子連れ同士の交流も盛んです。若者にとっても緑の中でリラックスできるスポットとして人気で、学生たちがベンチで勉強会を開いたり、恋人同士が池畔を散策する姿も見られます。このように老若男女問わず楽しめる公共公園として、カウザイ公園は住民の日常に溶け込んだ存在となっています。
Công Viên Hòa Bình(ホアビン〈平和〉公園)

- 周辺環境・雰囲気: ホアビン公園はハノイ北部Bac Tu Liem区に位置し、Pham Van Dong通り(空港道路)の脇に広がる大規模公園です。2010年の「ハノイ遷都1000年」を記念して造られた比較的新しい公園で、名前の通り「平和」を象徴するランドマークとなっています。周囲には近年開発が進む高層住宅地( Tây Hồ Tâyニュータウン等 )や在来の村落が混在し、まだ空き地も多いため公園の開放感が際立っています。交通量の多い幹線道路沿いですが、公園内部は広大な敷地に豊かな植栽と池が配置され、車の騒音も距離がある分さほど気になりません。特に園内中央にそびえる高さ30mの「平和の像」や鶴をかたどったデザインの正門など、シンボリックな構造物が目を引きます。園内は常時無料開放(夜間も通年開放)ですが、夜は人影が少なく静まり返るため通常の利用は日の出から日没までが中心です。普段は近隣の家族連れや学生が多く、週末には市内各地からピクニックに訪れるグループもいて、ゆったりレジャーを楽しめる郊外型の公園という雰囲気です。
- 広さ・内部構造・設備: 面積は約20ヘクタールとハノイ市内有数の広大さで、整備費に約2兆8200億ドン(約150億円)が投じられた近代的な公園です。園内は大きく分けて、中央の調整池(ホーディエウホア)と呼ばれる湖、水辺を囲む芝生広場、子供の遊び場、そして各種スポーツ施設ゾーンに分かれます。湖のほとりには噴水や日本の平和公園を模した記念碑など独創的な建築モニュメントが配置され、上空から見ると湖と門が組み合わさって「No War」という平和メッセージを描くデザインになっています。子供向けにはブランコやシーソーを備えたプレイグラウンドがあり、訪れた幼児たちが安全に遊べるようクッション舗装も施されています。スポーツ設備も充実しており、園内にはバドミントンコート、テニスコート、フットサル場、バスケットコートまで整備され、予約不要で自由に利用できます。さらに園内の各所にジョギングや自転車用の広い園路が巡らされ、健康器具も点在しています。ベンチや東屋、清潔な公衆トイレやゴミ箱も随所に配置され、快適性に配慮された造りです。大規模公園らしくイベント広場も備え、フードフェスや文化交流会など市主催の野外イベントが開かれることもあります。
- 遊歩道・安全性・子供向け: 園内には長大な遊歩道・ランニングコースが張り巡らされ、朝夕には多くの人がウォーキングやジョギングをしています。道幅が広く舗装も良好で、自転車で回ることも可能です。夜間は街灯が点きますが園内が非常に広いため、人通りの少ないエリアは避けた方が無難でしょう。日中は家族連れやグループが多く、防犯上の不安はほとんどありません。子供が遊べる環境も整っており、遊具エリア以外にも広大な芝生の原っぱでボール遊びやかけっこができます。保育園や小学校の課外活動で団体利用されることもあり、その際は先生方の見守りの下で安全に遊んでいます。公園側もバーベキュー用コンロの持ち込み禁止など安全管理に努めており、大人数で利用しても安心できるルールが整えられています。総じて空間にゆとりがあるため事故が起きにくく、都会では味わえないびのびとした環境で子供達が走り回れる貴重な場所となっています。
- 地元住民の利用状況: ホアビン公園は郊外に位置することもあり、日常的に利用するのは近隣の住民が中心です。早朝6時前後には付近の住民が集まり、広場で太極拳(健康体操)をする高齢者グループやジョギングを楽しむ人々が見られます。夕方になると仕事終わりの若者や学生が増え、園内は散歩やエクササイズをする人、バドミントンのラリーに興じるグループ、フォークダンスや社交ダンスの輪を作る中年層などで一気に活気づきます。また夕方以降、公園の入口付近にはローラースケートや子供用電動カーのレンタル屋台が現れ、子供から大人まで思い思いに娯楽を楽しんでいます。週末には家族連れがピクニックシートとお弁当を持ち込み、木陰で食事をしたりボール遊びをしたりする姿が至る所で見られます。テントを張って一日中のんびり過ごすグループもおり、バーベキューは禁止ですがお菓子や果物を広げてホームパーティーのように楽しむ光景もあります。広々とした芝生は企業のチームビルディングや学校の遠足にも利用され、イベント時以外の日も常に誰かがスポーツや遊びに興じています。さらに季節折々に書籍市やフードフェスなどの催しも開催され、若者に人気の写真スポットともなっています。このようにホアビン公園は、都市生活者が日常を離れてリフレッシュできる多目的空間として機能しており、ハノイ市民の週末レジャーの定番スポットにもなっています。
まとめ
ハノイの公園は、観光名所とは少し違う、“暮らしの息づかい”が感じられる場所です。
朝は太極拳をする人々のリズムが響き、昼は木陰で読書する学生、夕方には家族や恋人たちが笑い声を交わす――そんな穏やかな時間が流れています。
忙しい日々の中でも、緑の中を歩くだけで気持ちが軽くなる瞬間があります。Công Viên Bách Thảoの静けさに癒されるもよし、Cầu Giấy公園で子どもと遊ぶもよし、Hoa Binh公園で広い空を見上げるもよし。
ハノイの公園は、どれも都市の喧騒を少し離れて“自分を取り戻せる場所”です。
次の休日は、街の緑を探しに出かけてみませんか。