日本とベトナムでインターネット環境にはどんな違いがあるのでしょうか。日本人の在住者や移住予定者に向けて、主要プロバイダの料金や速度、賃貸物件でのWi-Fi事情、実際の通信品質、サポート対応や契約手続きなどを比較・解説します。ベトナム生活を快適に送るためのヒントも交え、まとめました。
ベトナムの主要インターネットプロバイダと料金プラン
ベトナムで主なインターネットサービスプロバイダ(ISP)として挙げられるのはVNPT、Viettel、FPTの3社です(その他にCMCやSPTなど地域・中小プロバイダも存在)。これら大手3社は個人向けと法人向けの両方にサービスを提供しており、光ファイバー(FTTH)と一部ADSL回線のプランがあります。法人契約では固定IPアドレスやサービス品質保証(SLA)などが付く場合もありますが、本記事では主に個人向け家庭用プランに注目します。
ベトナムの主な家庭向け光回線プラン(2024年前後)は以下の通りです:
- VNPT(ベトナム郵政電気通信グループ):月額 約20.9万ドン(約1,200円)で下り120Mbps、上位プランは 44.3万ドン(約2,500円)で250Mbps程度。全国規模で展開し、都市部を中心にサービス品質は安定しています。
- Viettel(軍隊通信グループ):月額 23.0万ドン(約1,300円)で下り110Mbpsから、上位は 48.0万ドン(約2,700円)で250Mbps程度。もともと携帯キャリア最大手であり、固定回線も都市から地方までカバーが広いのが強みです。
- FPT(FPTテレコム):月額 25.5万ドン(約1,500円)で下り100Mbpsから、最高プランは年額契約で 588万ドン/年(月あたり約49万ドン=2,800円相当)で200Mbps。IT企業グループ系のプロバイダで、都市部を中心に高速で安定した回線を提供しています。
上記を見ると、ベトナムの光回線料金は月額15万~25万ドン(約750~1,250円)程度のプランが多く、日本に比べかなり割安です。実際、ベトナムの家庭用ネット料金相場は月1,500~2,500円程度とされ、日本の光回線(月5,000円前後が一般的)に比べコストパフォーマンスが高いといえます。ベトナム政府や通信各社も価格競争に積極的で、住民から「高すぎる」と声が上がった際に料金を半額近く値下げした例もあるほどです。
なお、契約形態についてベトナムでは特徴的な点があります。多くのプロバイダで1年分の料金を一括前払いすると追加の利用期間(例:12ヶ月分前払いで14ヶ月利用可)といったプロモーションがあり、一括払いが推奨されています。月払いも可能ですが、まとめて払うことで割引や特典が付くケースが一般的です。また契約にはパスポートなど身分証を持参してプロバイダ窓口で手続きする必要があり、開通まで1週間以上かかることもあります。この点、日本のようにWEBや電話で申込→工事日調整という手軽さには欠けますが、最近はオンライン受付に対応する動きも出てきています。
日本の主要プロバイダの月額料金と速度の比較
日本でも多くの光回線サービスがありますが、代表的なものとしてNURO光(So-net)、auひかり(KDDI)、SoftBank光の3例を取り上げます(他にNTTフレッツ系の光コラボやDocomo光など多数存在)。日本の固定ブロードバンドは基本的に最大1Gbps(NURO光は最大2Gbps、一部10Gbpsプランも有)といった超高速通信が謳われています。月額料金は戸建て向けで5,000~6,000円程度、マンション向けで4,000円前後が相場です。
日本の主要回線はいずれも表記上はギガクラスの超高速ですが、「ベストエフォート型」のため実際の速度は環境で変動します。それでも概ね数百Mbpsの実効速度が出ており、一般的な利用(動画視聴やオンライン会議、クラウドサービス利用など)では全く問題ない水準です。特にNURO光やauひかりは独自回線で他ユーザーとの共用による渋滞が起きにくく、満足度が高い傾向があります。一方、SoftBank光のようにNTT光回線を他社とコラボ提供するタイプは、利用者が集中する時間帯に速度低下しやすいとの声もあり、高速性重視ならプロバイダ選びが重要になります。
項目 | ベトナム | 日本 |
---|---|---|
月額料金(家庭向け) | 約750〜2,500円(15〜50万VND) | 約4,000〜6,000円 |
下り速度(実測) | 100〜300Mbps(平均) | 300〜600Mbps(NUROやau光は600Mbps超) |
上り速度(実測) | 100〜300Mbps(平均) | 300〜600Mbps |
契約形態 | 前払い(年契約や月契約)、違約金なし | 2〜3年契約(更新あり)、違約金あり |
設置スピード | 通常1週間〜10日程度(事前契約済みなら即日) | 通常1〜2週間(NUROは1〜2ヶ月かかる場合も) |
サポート品質 | 中〜やや低(英語対応少、オーナー頼り) | 高(サポート充実、丁寧な対応) |
速度安定性 | 平常時は良好だが夜間や混雑時に低下あり | 非常に安定、夜間でも低下少 |
海外アクセス品質 | 海底ケーブル障害に弱く不安定なときあり | 高品質で安定、海外との接続も快適 |
ベトナムの賃貸物件におけるインターネット事情
海外生活では家探しと同時にネット環境も気になるところです。ベトナムの賃貸住宅(コンドミニアムやサービスアパート)では、物件によってインターネット料金が家賃に含まれている場合があります。特にサービスアパートメント(家賃に諸サービス込みの高級賃貸)ではオーナー側でWi-Fi設備を設置しており、入居後すぐに無料で使えるケースが一般的です。入居者は渡されたWi-Fiパスワードを入力するだけでインターネットに接続可能で、契約手続き不要・追加費用ゼロという手軽さが魅力です。
とはいえ、この無料Wi-Fiの通信品質や速度は物件によって様々です。多くのサービスアパートでは標準的なプランで十分不便なく使えるよう整備されていますが、一方で下り10~20Mbps程度しか出ない物件も少なくありません。10Mbps台だと高精細な動画視聴や日本のストリーミングサービス利用時に物足りなさを感じる人もいるでしょう。実際、「速度が遅すぎて日本のインターネットTV(ケーブルテレビのリモート視聴など)が見られない」ケースもあると報告されています。もし駐在中に日本の番組やNetflixを高画質で楽しみたい場合、この速度では支障が出る可能性があります。
こうした物件では追加料金を支払って上位プランにアップグレードしてもらえる場合もあります。入居時にオーナーや管理人に相談すれば、より高速なプランに変更対応してくれることもあります(もちろん別途料金は発生)。ただ基本的には初期設定のままで大きな不自由はないケースが多いようです。もしリモートワークで大容量データ通信が頻繁に必要などネット速度にこだわる場合は、物件内覧時に実際のWi-Fi速度を確認してみることをおすすめします。内覧中にオーナーや不動産業者からWi-Fiパスワードを教えてもらい、スマホの速度テストアプリ等で下り・上り速度を測定すれば、その物件のインターネット品質がおおよそ掴めます。
また、サービスアパートではなくコンドミニアム(分譲マンションの賃貸)の場合、インターネット接続基本料金を含む場合が多いです。多くの物件でオーナーや仲介の不動産会社が契約手続きをサポートしてくれます。実際、ベトナムで5軒以上引っ越した方は、全てオーナー側で契約済みの回線を使わせてもらい、一度も自分で新規契約しなかったそうです。契約前に「この物件はネット使えますか?料金込みですか?」と確認すれば、オーナーが既存回線のまま利用させてくれる場合も多いとのことです。もし自分で契約することになっても、不動産会社スタッフが同行してくれたり、設置工事日程の調整を手伝ってくれることが一般的です。言語面では、ベトナムの通信会社窓口スタッフは英語が通じないことも多いため、日本人は代理のサポートを頼るのが無難でしょう。
なお、家賃込みWi-Fiのルーター品質についても補足します。置かれているルーター機種は物件によりまちまちですが、古いものだと2.4GHz帯のみ対応(通信は安定するが速度は出にくい)だったり、部屋数の多い大型物件では各階に共用ルーターを設置して全入居者で帯域をシェアしているケースもあります。そのため夜間に同じ建物の住人が一斉に使うと速度低下が起きやすい、といったこともあり得ます。必要に応じて自前の高性能Wi-Fiルーターを持ち込んでアクセスポイントに繋ぐ、あるいは思い切って自腹で個人回線を契約する(月20万ドン=数百円程度で高速化できるなら安い投資です)ことも検討すると良いでしょう。


一般ユーザーが体感する通信速度・安定性の比較(ベトナム vs 日本)
通信速度そのものを比べると、近年ベトナムは大きく向上しています。例えばOokla社のSpeedtest統計によれば、2025年2月時点の固定ブロードバンド平均ダウンロード速度はベトナムが164.77Mbpsで、世界平均(98.31Mbps)を大きく上回る水準に達しました。シンガポールやUAEなどトップクラスの国(300Mbps超)には及ばないものの、「世界の最先端グループに肩を並べつつある」と評価されるほど急速に改善しています。実際2023~2024年にかけてベトナム政府の指導で大手3社が相次ぎ最低速度保証プランを100Mbps台から300Mbpsに引き上げる措置を取りました。月額約18万ドン(7~800円)の最安プランでも300Mbpsが出る時代になり、25万~30万ドン(約1,200~1,500円)の中~上位プランでは最大1Gbpsにまで到達しています。これは数年前には考えられなかった高速化で、まさにベトナムのネット環境は飛躍的に発展しています。
一方日本の固定回線は従来から高速で安定しており、平均実測速度も数百Mbps程度と推定されます。直近データでは日本の全国平均は公表されていませんが、参考までにSoftBank光(NTT光系)の平均実測下り速度が約313Mbps、NURO光の平均実測が600Mbps前後ということから、日本全体としても200~300Mbps台は出ていると考えられます。総務省などの統計では日本のブロードバンド普及率・品質は世界的にも上位に位置しており、特に光回線の全国普及率は非常に高いです。つまり日本・ベトナムともに「普段使い」に十分な高速ネットが利用可能な水準ではあります。
では体感速度や安定性はどうでしょうか。実利用上、日本の光回線は時間帯による速度低下や不安定さが少ないのが強みです。住宅密集地でプロバイダが混雑すると夜間に多少スピードが落ちることもありますが、動画視聴が止まるほど極端に遅くなるのは稀です。オンライン会議やクラウドサービス利用も、日本では概ねストレスなく行えます。

対してベトナムのネットは、「日本の光回線に比べると速度は遅く、夜のピークタイムには顕著に速度低下することもある。さらに海底ケーブル障害が起きると、日本など海外サイトへのアクセスが著しく遅くなる」という指摘があります。実際、ベトナムでは国際海底ケーブルの断線事故がたびたびニュースになるほどで、複数の主要ケーブルが同時障害を起こした2023年初頭には「どの回線を使っても亀のように遅い」状態になり、多くのユーザーが苛立ちを覚えました。あるハノイのPCショップ経営者は「以前は数百MBのファイルもすぐダウンロードできたのに、今は1Mbps以下に落ちて完了すら怪しい」と嘆き、YouTube動画は強制的に最低画質に落とされる有様だったといいます。
このようにベトナムのネットは国際回線のボトルネックに左右されやすい傾向があります。日本も海底ケーブルで世界と繋がっていますが、ルートの多重化や帯域の冗長確保が進んでおり、一般ユーザーが海外トラフィックの問題を体感することはほぼありません。ベトナムの場合、主要ケーブルが2~3本障害を起こすと主要ISPすべてで海外通信が逼迫し、国内ユーザーはスマホの4Gに切り替えてもしんどい…という事態になります。2023年初めの事例では、93%の利用者が「以前より遅くなった」と回答し、SNSに写真1枚上げるのに数分かかるなど生活・業務に支障が出ました。幸い2024年に新たな大容量ケーブル(ADCケーブル:設計容量20Tbps)が開通して、この弱点も徐々に改善される見込みです。
もっと身近なユーザー目線の声も紹介します。ベトナム在住の日本人ブロガーは「海底ケーブル障害時を除けば、普段ネットが極端に遅いと感じることはない」と述べています。自宅で日本のテレビ番組をネット経由で視聴したりYouTubeを楽しんだりしているが、速度面で特に問題を感じたことはないそうです。つまり通常時であればベトナムでも動画視聴やSNS利用は概ね快適に行えるレベルです。逆に日本でも、プロバイダ選び次第では速度体感に差が出ることもあります。総じて、日本は平常時・繁忙時ともに安定高速、ベトナムは平常時は実用十分だが繁忙時や国際通信で不安定になることがある、と言えるでしょう。
サポート品質・設置スピード・契約手続きの違い
最後に、実際の利用環境(サポート対応、工事スピード、契約のしやすさ等)の違いについてまとめます。
まずカスタマーサポートや故障対応ですが、これは日本に軍配が上がります。日本の主要プロバイダは大手通信企業が運営しており、問い合わせ窓口の整備やサポート対応は総じて丁寧で迅速です。もちろんコールセンターに電話すると待たされる…といった不満はあるものの、技術スタッフの派遣や機器交換などの対応は比較的スムーズで安心感があります。対するベトナムでは、言葉の壁もあって外国人が直接サポートを受けにくい場面があります。先述の通り通信事業者のコールセンタースタッフは英語が通じないことが多いため、不具合時には不動産会社スタッフやベトナム人の同僚に仲介してもらう必要がでてきます。実際、不調が起きた際は「まずモデムの電源リセット→改善しなければオーナーや不動産会社経由でプロバイダへ連絡」というのが一つの対処フローになるでしょう。幸い筆者自身の経験ではベトナム人スタッフの力を借りて、FPTやViettelは連絡後1~2日以内に技術者が訪問対応してくれ、大事には至りませんでした。ベトナムでもFPTはカスタマーサービスの評価が高いとされ、各社サポート品質向上に努めていますが、日本のきめ細かなサービスと比べるとまだ発展途上と言えます。
設置工事のスピードに関しては、一概にどちらが速いとは言えません。日本では通常、申し込みから1~2週間程度で開通することが多いですが、繁忙期や戸建て新設で屋外工事が必要な場合は数週間~1ヶ月待ちもあります。一方ベトナムでも、コンドミニアムで設備が整っていれば申し込みから数日~1週間で開通します(不動産会社が事前に手配してくれている場合などはさらに早いです)。ただし一般的には「日本は段取りが早く、ベトナムはのんびり」という印象を持つ駐在者も多いようです。ベトナムでは申込後、技術者の都合で約束の日時に来ない・再調整になる…といったことも散見され、多少の寛容さが求められるでしょう。
日本では契約者側で工事日を調整しなければなりませんが、平日昼間しか空きがないことも多く、仕事を休んで立ち会う必要があるなど煩わしさもあります。その点、ベトナムでは大家さんが代わりに対応してくれたり、入居前に既に開通させておいてくれる場合もあるため、逆に入居者はラクな場合もあるでしょう。
契約手続きのしやすさも比較してみます。日本ではネットや電話で申し込みが完結し、本人確認書類もオンライン提出できるなど手軽さが進んでいます。住所さえ決まっていれば渡航前でも申し込み可能です。一方ベトナムでは前述のように基本は窓口で書類記入→現金支払いが主流です。最近は各社ともWeb受付フォームを用意し始めていますが、結局スタッフと電話確認が必要だったり、支払いもオンライン決済非対応でオフィスに行く必要があったりと、煩雑さが残ります。ただし契約自体は短期の縛りが緩い利点があります。日本の光回線は2~3年契約の自動更新が多く、途中解約には1万円前後の違約金が発生します。対してベトナムは前払い制ゆえに厳密な「違約金」はなく、使わなくなったらそのまま放置(未利用期間の返金は基本なし)で済むことも多いです。極端に言えば数ヶ月で引っ越す場合でもその分だけ支払えばよく、日本ほど契約期間の拘束を意識せずに済みます。
まとめ
以上、ベトナムと日本のインターネット事情を比較してきました。最後にデータとユーザー視点を踏まえた要点を整理します。
- 料金面では、ベトナムのインターネットは格安です。月額わずか1,000~2,000円程度で100~300Mbpsの光回線が利用でき、コストパフォーマンスは非常に高い。日本では5,000円前後払うのが当たり前なので、この安さは移住者にとって嬉しいメリットでしょう。ただしベトナムでは年払い割引など一括支払いの文化があるため、渡航後すぐ数万円程度の現金を用意して契約する心積もりは必要です。
- 速度・品質面では、日本の回線は総じて安定高速で信頼性抜群です。ベトナムも普段は快適ですが、夜間の速度低下や国際回線障害などで不安定さを感じる場面があるのは否めません。在宅勤務などミッションクリティカルな用途には日本ほどの安心感はないため、バックアップ回線(例:携帯データ通信の大容量プランや予備のSIM/eSIM)を用意しておくと安心です。実際ベトナム在住者の中には、自宅Wi-Fiが遅くなった時に4G/5Gテザリングで乗り切る方もいます。
- 賃貸物件のWi-Fi事情では、物件選びの際に「ネット無料か」「速度は十分か」を確認しましょう。無料で使えるならまずは恩恵に与り、不足を感じたら有料プランにアップグレードするなど柔軟に対応可能です。内覧時の速度テストや、近隣の日本人コミュニティに評判を聞くのも有効です。また、自前契約する場合は信頼できるプロバイダ(多くはVNPT/Viettel/FPTの三択)を選びましょう。FPTはサポート対応含め評判が良いので初めての方にもおすすめです。
- 契約・サポート面では、言語の違いをカバーする工夫が大事です。ベトナムでは日本語対応可能な窓口は皆無なので、契約時は不動産仲介業者や日系ITサービス会社のサポートを受けるとスムーズです。不具合時もオーナーや現地スタッフに間に入ってもらいましょう。
- 総合的な所感として、「ネット環境の快適さ」は日本の方が一枚上手です。しかし「料金の安さや柔軟さ」ではベトナムに軍配が上がります。日本のような品質を求めるなら多少お金をかけてでも高速プランにし、設備も自前で整える。逆に多少遅くても節約したいなら無料Wi-Fiや安価プランで割り切る、といった選択ができます。幸い近年のベトナムは急速にネット環境が向上しており、「シンガポールの1/10の速度」と嘆かれた時代から考えれば格段に使いやすくなりました。「頑張れベトナム!」という声も現実となりつつあります。

移住や長期滞在に際しては、快適なインターネット環境は生活の質を左右する重要事項です。日本とベトナムの違いを正しく理解し、上手に適応することで、現地でもストレスなくデジタルライフを楽しめるでしょう。本記事の情報を参考に、ぜひ快適なネット環境を整えてください。新天地での生活が充実したものになりますように!