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ベトナムの国会議事堂の会議室

ベトナム中央省庁、大再編へ(2025年) – 行政スリム化で何が変わる?

目次

2025年2月、ハノイの国会にて中央省庁の再編案に対し票を投じるベトナムの党・政府指導者たち。新体制への移行が正式に決定しました。

2025年、ベトナム政府は数十年ぶりとなる**中央省庁の統合・削減(大再編)**に踏み切りました。これはベトナムに住む私たち日本人にとっても無関係ではありません。どんな背景でこの再編が行われ、具体的にどの省庁がどう変わるのか? そして在住者や企業にはどんな影響があるのか? 本記事では、専門用語をできるだけ避け、ポイントを絞ってわかりやすく解説します。

再編の背景 – なぜ省庁を減らすの?

ベトナム政府が中央省庁の再編を決めた背景には、大きく3つの狙いがあります。

  • 行政の効率化: 政府機関のスリム化によって手続きを簡素にし、官僚機構を俊敏にすることが目的です。省庁の数が減れば縦割りの弊害が減り、一つの案件で何カ所も回る必要がなくなると期待されています。

  • 人件費の削減: 公務員のポストを削減し、人件費など国家予算の節約につなげます。今回の改革で**約10万人(国家公務員全体の15%程度)**の公務員ポジションが削減される見通しで、「役所がぬるま湯の職場になってはいけない」といった厳しい声も政府内から上がっています。

  • 政権運営の強化: 共産党政権の指導力強化も重要な目的です。トップのトー・ラム書記長(2024年に就任)は「体を健康にするには苦い薬を飲んで腫瘍を取り除かねばならない」と表現し、大胆な改革に乗り出しました。組織を絞り込むことで党中枢の統制力を高め、政策を迅速に実行できる体制を目指しています。

    こうした背景には、近年の汚職摘発キャンペーンで官僚が萎縮し行政手続きが滞った反省や、ポストコロナでの経済活性化策、さらには周辺国でも行政の効率化を進める動きがあることも影響しています。つまり「無駄を省き、強い政府で経済成長を後押しする」ための改革なのです。

統合される主な省庁リスト – 何と何が一緒になる?

今回の中央省庁再編では、複数の省を統合して新しい省に再編する大きな変更が行われます。主な統合の組み合わせは次のとおりです。

  • 財政省+計画投資省: 国家の財政運営と投資計画を一元化します。統合後の新「財政省」が予算編成から投資認可までまとめて管轄することで、資金計画と投資促進を一体的に進める狙いです。

  • 運輸省(交通運輸省)+建設省: 道路や鉄道など交通インフラ担当の運輸省と、都市開発や建築を所管する建設省を合併します。インフラ整備と都市計画を一体化し、無駄のない開発を目指します。なお、運転免許の発行業務は公安省へ移管されました。

  • 天然資源環境省+農業農村開発省: 環境保護や資源管理と、農林水産・農村開発行政を統合します。土地・水資源の管理と農業振興を一つの「農業・環境省」(仮称)にまとめ、持続可能な農業政策を推進します。

  • 情報通信省+科学技術省: IT・通信政策と科学技術振興を統合し、デジタル技術と科学イノベーションを一体で推進します。統合後の新「科学技術省」が、これまで情報通信省が所管していた通信・IT政策もまとめて担当し、行政のデジタル化も加速させる方針です。

  • 労働傷病兵社会問題省(労働省)+内務省: 労働者の雇用や社会保障を所管してきた労働省は解体され、その機能は複数の省に分散移管されます。具体的には雇用政策や労働許可証などは内務省に統合され、職業訓練は教育訓練省、社会福祉や児童保護は保健省、といった形で担当が振り分けられました。長年ベトナムに駐在する外国人の労働許可発行窓口だった部門も内務省傘下へ移り、体制簡素化が図られます。

  • 民族・宗教省の新設: 上記の統合とは別に、新たに「民族・宗教省」が創設されました。これは従来、少数民族政策を担っていた民族委員会(国家直属機関)と、内務省が所管していた宗教(信教)行政を統合したものです。少数民族支援と宗教管理を一つの窓口に集約し、文化的多様性への対応力を高める狙いがあります。

    以上の統合により、中央政府の省は従来の18省から14省へ削減されました(新規の民族・宗教省を含むため統合の組み合わせ数は上記より1件多くなっています)。例えば計画投資省と財政省の統合は、日本で言えば経済企画庁と大蔵省(いずれも旧省庁)を合併するような大改革と言えます。まさに「一省に二役以上」を持たせる形で、省庁の数を思い切って減らしたのです。

再編でどんな変化が起きる? – 新体制のポイント

省庁数が減り組織がスリム化することで、具体的に以下のような変化が起こります。

  • 政府の構成: 中央省庁の数は18省から14省に縮小され、併せて省庁級の政府機関も3機関に整理されました(従来は4機関)。国防省や公安省(警察)、外務省、保健省など一部の省庁は統合対象とならず現行通り存続しますが、内閣全体で約20%の組織削減が実現します。

  • 職員数の削減: 上述のとおり、最大で15~20%にあたる約10万人分の公務員ポストが削減される見込みです。浮いた人件費は国の予算節約につながるだけでなく、優秀な人材の給与引き上げなどに充て、行政サービスの質向上にもつなげる計画です。政府は「能力の低い職員は排除し、役所を怠け者の安住の地にはしない」姿勢で臨んでおり、人事評価もより厳しくなるとみられます。

  • 機能の整理・再配置: 省庁ごとに重複していた部署の統合・廃止も進められます。各省の内部組織では合計約500の部局が廃止される方針で、これまで複数の省庁にまたがっていた行政機能が一本化されます。例えば投資案件の認可機能は、計画投資省から財政省(新)に一元化され、地方でも従来の計画投資局に代わり財政局が投資許可を出す仕組みに移行します。また労働許可証の発行も労働省から内務省へ所管替えとなり、企業や外国人は新しい担当窓口に申請することになります。このように役割分担を見直し、「どの役所の担当か分かりにくい」といった従来の問題を減らす狙いがあります。

  • 政策の一貫性向上: 統合により一つの省が幅広い関連分野を所管することで、総合的な政策立案が期待できます。たとえば環境と農業が一緒になれば、環境保護と農村開発を両立させる政策調整がしやすくなります。同様に、通信技術と科学技術の融合でデジタル経済の推進力が増すなど、より戦略的な行政運営が可能になるとされています。政府も「今回の改革は単に予算節約にとどまらず、システムの効率向上が何より重要だ」と強調しています。

    もっとも、こうした変化の恩恵が実感できるまでには時間も必要です。一時的には新旧組織の引き継ぎで現場が混乱し、許認可や手続きに遅れが出る可能性も指摘されています。では、この再編は実際に私たちの生活やビジネスにどんな影響を与えるのでしょうか?

在住日本人・企業への影響 – 手続きはどう変わる?

ベトナムで暮らす日本人や日系企業にとって、今回の省庁再編は行政手続きの面でいくつか影響が出そうです。良い面もあれば注意すべき面もあります。

  • 窓口の一本化で利便性向上: 役所のワンストップサービス化が進む可能性があります。例えば、これまでは外国企業の投資許可を得るのに計画投資省と財政省それぞれに調整が必要でしたが、統合後は新しい財政省で一括して対応できるようになります。同様に、環境許可と農業関連手続きが一つの省でまとまるなど、「〇〇はどの省庁へ申請すればいいか?」が分かりやすくなることが期待できます。

  • 手続き迅速化と負担軽減: 行政の効率化により、各種許可や証明の取得にかかる時間短縮が見込まれます。省庁間の縄張り意識が減り、省庁同士の調整待ちで申請が滞る…といったケースが減れば、企業にとっても事務対応の負担軽減になります。役所側でも優秀な人材を登用してサービス向上を図る方針で、将来的にはより丁寧で迅速な行政サービスが提供されるとされています。

  • 短期的な混乱・遅延のリスク: 一方で、移行直後の一時的な混乱には注意が必要です。新旧組織の境目で「担当がどこに変わったのか分からない」「申請書類の様式が変更された」といった混乱が起こりえます。実際、再編が決定した直後から「許認可手続きに混乱が生じている」との声も一部企業から報告されています。政府自体は「プロジェクトの認可に影響は出さない」と強調していますが、当面はビザ更新や投資申請など通常より処理に時間がかかる可能性が高いです。書類提出先が途中で変更になるケースも考えられるため、最新情報の確認が欠かせません。

  • 担当部署変更への対応: 上記のように、省庁再編によって担当窓口が変更になる手続きがあります。たとえば外国人労働許可証の発行業務は労働省から内務省に移りました。これにより、これまで労働許可を申請していた人(企業)は、今後は内務省系列の役所に申請することになります。所在地や申請方法の変更に戸惑うかもしれませんが、新しい窓口での手続きフローを早めに把握しておくことが大切です。日本人駐在員の多い企業では、担当部署への確認や社内情報共有を進めておくと安心でしょう。

    日本商工会議所(JCCI)も2024年末時点でベトナム政府に意見書を提出し、「省庁再編自体は歓迎だが、外国企業の投資相談窓口機能や労働許可の発給業務が途切れないようにしてほしい」と要望しています。つまり在ベトナム日系企業としては、便利になることを期待しつつ、「過渡期の手続き停滞」で実務に支障が出ないよう注視している状況です。

今後のスケジュール – 再編はいつ完了する?

中央省庁の再編は2025年内に集中的に実施され、その移行スケジュールは次の通りです。

  • 2025年2月: 国会(第15期特別会合)で中央政府機構の再編案を正式承認。法改正も行われ、省庁再編の法的基盤が整備されました。直後に各省の統廃合や新大臣の人事が決定します。

  • 2025年3月: 3月1日から新体制が始動。2月末までに旧組織から新組織への引き継ぎが行われ、中央省庁は予定どおり14省体制へ移行しました。副首相ポストも5人から7人に増員され(統合に伴う管理強化のため)、新体制での行政運営がスタートしました。

  • 2025年7月: 中央に続き、地方行政の大幅再編が予定されています。現在63ある省・市(地方自治体)を約34に統合し、地区(郡)レベルの行政単位は原則廃止するという大胆な改革です。7月1日から新たな地方行政区画による体制が開始される見込みで、地方政府の効率化も図られます。

  • 2025年末まで: 年内いっぱいをかけて中央・地方の新組織の調整や細則の整備が行われる見通しです。省庁再編に伴う関係法令の改正や省庁ウェブサイト・申請窓口の変更案内なども順次進むでしょう。政府は2025年内に一連の再編作業を完了させる計画であり、2026年には安定した新体制の下で第14期党大会(5年に一度の共産党大会)を迎える予定です。

    まとめ: 私たち日本人にとって、今回のベトナム中央省庁再編は少し縁遠い話にも思えますが、実はビザ手続きや事業運営の身近な部分に変化をもたらします。行政サービスの**「一時不便、のち便利」**に備え、最新情報をチェックしながら上手に対応していきましょう。新体制によってベトナムの行政効率が上がれば、将来的には日系企業にとってもビジネス環境の改善につながるはずです。改革直後の今こそ注意深く見守りつつ、変化を前向きに捉えていきたいですね。

参考資料・出典一覧

  • JETRO海外ビジネスニュース 「2025年春に中央省庁を再編へ、企業実務への影響に懸念も(ベトナム)」(2025年1月6日)jetro.go.jpjetro.go.jp

  • DW (Deutsche Welle) ニュース 「What is Vietnam’s administrative ‘revolution’?」(2025年5月3日)dw.comdw.com

  • ロイター通信 (Reuters) 報道 「Vietnam parliament approves plan for leaner government」(2025年2月18日)reuters.comreuters.com

  • JETROビジネス短信 「国会が中央省庁の再編承認、3月1日から新体制始動(ベトナム)」(2025年2月)jetro.go.jpjetro.go.jp

  • VnExpress International記事 “Vietnam’s cabinet reduced to 14 ministries…” (2025年2月18日)e.vnexpress.nete.vnexpress.net