ベトナムの銀行個人口座・法人口座開設ガイド

ベトナムの銀行口座開設ガイド

個人口座の開設(ベトナム居住の日本人)

ベトナムで日本人が個人口座を開設する場合の条件: ベトナムではマネーロンダリング対策の強化により、外国人が銀行口座を開設するには長期滞在資格(12か月以上の滞在許可)が必要です。2019年7月以降、このルールが厳格化されており、以前は3か月ビザでも口座開設できたケースも現在は難しくなっています。したがって、ワークパーミット(労働許可証)+一時滞在証明カード(TRC)や長期ビザなどを取得し、ベトナムに居住していることを示す必要があります。観光ビザや短期滞在では基本的に口座開設できませんので注意してください。

必要書類: 開設時には以下の書類・情報を準備します。

  • パスポート(有効期限内のもの)
  • **長期滞在ビザや一時滞在証(TRC)など滞在資格証明(有効期限12か月以上)
  • 現地住所の証明(賃貸契約書や公共料金請求書など。銀行によってはホテル住所でも可)
  • ベトナムの携帯電話番号(SMS通知やOTP受信用)
  • 初期預入金(口座開設手数料・カード発行手数料相当。約5万~10万ドンが目安)

銀行窓口で必要となる申込用紙は基本的に現地で用意されます。記入言語は通常ベトナム語ですが、主要銀行では英語対応してくれるスタッフがいる場合もあります。

カードとネットバンキング: 口座開設時にATMキャッシュカード(デビットカード)の発行申請も行います。カード発行には約1週間かかり、支店に再度取りに行くか自宅郵送かを選択できます。カードには国内専用カード国際ブランド付きカードの2種類があり、後者(Visa/Master/JCBデビット機能付き)のほうが年会費がやや高いです。海外でもATM引出や決済に使いたい場合は国際デビット機能付きカードを選ぶと良いでしょう。口座開設完了後は、インターネットバンキング(オンラインバンキング)利用の登録も行います。その場でユーザー名や初期パスワードを設定し、スマホアプリやウェブで残高確認・振込ができるようになります。多くの銀行では初回ログイン時に銀行ATMでのカード暗証番号変更やワンタイムパスワード(OTP)デバイスの受取が必要になるので、案内に従って設定してください。

主要銀行の比較(個人口座)

ベトナムには国営系から民間系まで多数の銀行がありますが、日本人を含む外国人が口座を開設しやすい主な銀行として、ベトコムバンク (Vietcombank)テックコムバンク (Techcombank)BIDV (ベトナム投資開発銀行)、TPバンク (TienPhong Bank)などが挙げられます。以下、それぞれの特徴や違いを解説します。

  • ベトコムバンク (Vietcombank/外商銀行): 元国営のメガバンクであり、現在も最大手の銀行です。全国に支店・ATM網が最も充実しており、在住日本人の利用者も非常に多いですj日本のみずほ銀行が資本参加していることもあり経営の安定性が高く、外国人でも比較的口座開設しやすいとされています。日常使いの普通預金口座に毎月2,000ドン(約10円)の口座維持費がかかりますが、金額はごく僅かです。ATM引出手数料は自行ATMなら1,100ドン(約5円)程度、他行ATMからは3,300ドン(約15円)と安価です。ネットバンキングサービス「VCB Digibank」では英語インターフェースにも対応しており、残高照会や振込操作を英語表示で行えます。クレジットカードもVISAやMasterのほかJCB提携カード(ベトナム航空マイルが貯まるカード等)を発行しており、サービスが充実しています。初回口座開設時には約5万~10万ドン程度のデポジットが必要ですが、定期預金金利は1年で4.1%前後(2025年5月時点)と高水準です。

  • テックコムバンク (Techcombank/技術商業銀行): 民間大手銀行で、2014年には「ベトナム最優良銀行賞」を受賞しています。デジタルバンキングに強みがあり、モバイルアプリやオンラインサービスが使いやすいことで評判です。外国人にも比較的口座開設に前向きで、ハノイやホーチミンで多くの在住日本人が利用しています。実際にハノイでTechcombank口座を開設した日本人のケースでは、**パスポートと労働許可証(ワークパーミット)の提示を求められ、担当者は英語対応可能だったためスムーズに45分ほどで手続き完了しています。カードは国内専用と国際デビットの2種類から選べ、ネットバンキング用のユーザー名も即時に発行されました。口座維持手数料も安価(毎月数千ドン程度、条件により無料)で、他行と同様に最低預金額として5万~10万ドン程度の入金が必要です。また、日本のJCBと提携しているため、Techcombank発行のカードでJCB加盟店やATMを利用できる点も特徴です。定期預金金利は1年で約4.75~5.0%と非常に高めです。

  • BIDV (ベトナム投資開発銀行): 国有商業銀行の一つで、ベトナム五大銀行に数えられます。全国に127支店・1500台以上のATMを展開する規模の大きさに加え、ハノイとホーチミンに日本人向けの「ジャパンデスク」を設置しており、日本語話者スタッフによるサポートが受けられます。実際、BIDVは日本語の公式ホームページも公開しており、口座開設手続きや各種サービスについて日本語で案内を得ることができます。このため言語面の不安がある駐在員や日系企業関係者に人気の銀行です。口座維持費やATM手数料は他の国営行と同程度で、定期預金1年金利は約4.7%(2025年時点)となっています。BIDVでは初回入金額や必要書類は一般的な範囲ですが、場合によっては銀行側から在留証明や勤務先情報を詳しく聞かれることもありますので、日本語デスクを活用して対応すると良いでしょう。

  • TPバンク (TPBank/Tien Phong Bank): 近年急成長している民間銀行で、特にITを活用したサービスに力を入れています。ハノイ市内に無人店舗「LiveBank」を設置し、ビデオKYCによる口座開設を24時間行える点がユニークです(ただし外国人の場合、最終的にはパスポート等原本確認のためスタッフ対応が必要です)。個人口座の場合、50,000ドンの最低初期預入が必要ですが、口座開設手数料自体は無料です。TPBankではマルチカレンシー対応の決済口座が開設でき、VNDのほかUSDやEUR建ての口座も追加で持つことができます。またイージーリンク(EasyLink)口座という独自の商品があり、これは決済口座と自動貯蓄口座、ローン枠を連動させて金利最適化を図るサービスです。デビットカードやネットバンキング、モバイルアプリ(eBank)の使い勝手も良く、振込や光熱費支払いなど日常取引をスマホで完結できます。TPBankは比較的新しい銀行のため日本語対応はありませんが、英語でのサポートや案内は整備されています。

このほか、ベトインバンク (VietinBank)も三菱UFJ銀行との提携により日本語サービスに注力しており、日本語ウェブサイトや日本人駐在員対応の商品を提供しています。また韓国系の新韓銀行(Shinhan Bank)や英資本のHSBCなど外資系銀行もありますが、これらは最低預金額が高い・維持手数料が割高といった傾向があるため、一般的な個人口座としてはベトナム系の大手銀行を利用するケースが多いです。

個人口座の手数料とオンラインバンキング

ベトナムの銀行では、日本にはない口座維持手数料が発生する場合があります。もっとも額は非常に小さく、例えばVietcombankでは月額2,000 VND(約10円)VietinBankでは日額1,000 VND(約4~5円)ですが、残高が一定額(例: Vietinで10万VND以上)あれば免除されます。民間のデジタル銀行TimoやTPBankイージーリンク口座のように維持費無料のサービスも登場しています。いずれにせよ最低残高要件(数万ドン程度)を下回らなければ維持手数料はほぼ気にしなくてよいでしょう。

ATM手数料: 自行ATMでの引き出し手数料は1,000~1,100ドン(約5円)程度、他行ATMだと3,000~5,500ドン(15~25円)程度が一般的です。近年は他行宛ての国内送金手数料も安く、同一都市圏内なら1~2万ドン(数十円)程度、同行間や同行同支店あては無料という設定もあります。例えばVietinBankでは同じ支店同士なら振込無料、別支店でも1万VND程度と細かく設定されています。一方、ネット専業銀行のTimoでは国内送金が全て無料であるなど、銀行によって差異があります。自分の利用スタイルに合った手数料体系の銀行を選ぶと良いでしょう。

オンラインバンキング: 主要銀行はすべてインターネットバンキング(Web)やモバイルアプリによる残高照会・振込・請求支払い等に対応しています。口座開設時に希望すれば同時にオンラインバンキングの契約も行え、初回ログイン用パスワードやワンタイムパスワード(OTP)発行方法の案内があります。OTPはSMS送信のほか、銀行独自のOTP生成アプリやトークン端末を利用する方式もあります。スマートフォンさえあれば残高確認や振込が数タップで完了する便利さは日本以上との声もあり、在住者にとってオンラインバンキングは欠かせません。

言語面では、多くの銀行が英語表示に対応したネットバンキング画面やモバイルアプリを提供しています。例えばベトコムバンクのアプリやWebは英語切替が可能で、主要機能は英語で利用できます。一部銀行(BIDVやVietinBankなど)は日本語窓口や日本語サイトを持っていますが、オンライン画面自体は英語ベースになることが多いです。操作に不安がある場合は、日本人利用者向けマニュアルを用意している銀行もありますし、店頭で登録時にスタッフが使い方を教えてくれることもあります。なお、外貨送金(国際送金)についてはネットバンキングから直接できる銀行と、店頭手続きが必要な銀行があります。Timoなど一部を除き、基本的に海外への直接送金機能は提供されていますが、**個人口座から日本への送金は手数料が割高(送金額の0.2%+中継銀行料15~40USD程度)**であり、さらに為替レートに上乗せ手数料が含まれる場合もあります。円滑かつ低コストに国際送金したい場合、Wiseなど専門サービスの活用も検討するとよいでしょう。

法人口座の開設(日本人経営の現地法人)

日本人がベトナム・ハノイで現地法人(100%外資または合弁会社)を設立し、法人名義の銀行口座を開設する場合について説明します。会社設立直後から資本金払込や取引のために銀行口座が必要になりますが、必要書類を揃えれば登記完了直後でも口座開設は可能です。

法人口座開設の条件と必要書類

開設条件: 法人口座を開くには、まず現地法人が正式に設立・登記されていることが前提です。ベトナムでは会社設立時に投資登録証明書(IRC)と企業登録証明書(ERC)の2つの証書が発行されますが、これらが銀行口座開設に必要な基本書類となります。外資100%子会社であっても合弁会社であっても、銀行手続き上は「外国資本を含むベトナム法人」として扱われ、要求書類に大きな違いはありません。

必要書類: 一般的に以下の書類を提出します。

  • 企業登録証明書 (ERC) のコピー
  • 投資登録証明書 (IRC) のコピー
  • 法定代表者(代表取締役)の身分証明書(パスポートのコピー、および必要に応じて在留カードやビザ)
  • 会社印鑑証明書(発行されていれば。会社実印の届出証明など)
  • 定款(英語またはベトナム語)(銀行によって要求される場合がある)
  • 銀行所定の口座開設申込書(銀行で入手、会社情報・取締役情報・取引目的などを記入)
  • 初回預入金(最低 100万VND=約5,000~6,000円程度を現金または小切手で預け入れ。銀行により金額指定あり)

銀行窓口では、会社代表者または委任を受けた担当者が来店し手続きを行います。代表者以外を口座の署名権者として登録する場合、代表者からの委任状が必要です。通常、日系企業では代表者本人と現地スタッフ(会計担当者など)2名の共同署名口座にするケースもありますが、その場合も委任状や社内決議書で権限付与を証明する必要があります。準備書類は銀行や状況によって追加要請されることがあり、例えば会社設立から日が浅い場合は登記事項証明の公証訳を求められたり、代表者が外国人の場合はベトナムでの在留資格を確認されることもあります。事前に希望する銀行の担当者と相談し、要求書類リストを確認しておくと安心です。

資本金口座と通常口座: 外資企業の場合、銀行口座には大きく分けて「資本金専用口座」「運転資金(通常)口座」の2種類があります。資本金口座は会社設立時に出資金を受け入れるための口座で、設立後まずこれを開設し海外から資本金を送金します。ベトナム法では、ERC発行日から90日以内に資本金を資本金口座に入金する義務があるため、この口座開設が最優先となります。資本金の払い込みが完了し当局への報告を行った後は、この口座資金を運転資金用の口座へ振り替えて使用したり、同じ銀行で「運転資金口座」(通常の当座預金口座に相当)を別途開設して日常の取引に使います。運転資金口座はVND建て口座のほか必要に応じてUSD等の外貨建て口座も開設可能で、売上入金や経費支払い、従業員給与振込などに利用します。なお、資本金口座を開設した銀行でそのまま通常口座も開くのが一般的ですが、要望に応じて複数の銀行に口座を持つこともできます。

銀行ごとの違い(法人サービス・条件など)

銀行選択のポイント: 日系企業がベトナムで法人口座を開設する際、候補となる銀行は大きく**「日系銀行」(みずほ銀行、三菱UFJ銀行、SMBCなど現地支店)、「外資系銀行」(HSBC、スタンダードチャータード、韓国系シンハン銀行など)、「ベトナム系ローカル銀行」(VietcombankやTechcombankなど)に分類できます。それぞれメリット・デメリットがありますので、自社の状況に応じた選択が重要です。

  • 日系銀行(邦銀現地支店): 信頼性が高く日本語で対応してもらえる利点がありますが、日本本社での取引実績がない新興企業の場合、口座開設は難しいのが現状です。日系銀行は既存顧客(日系大企業など)中心の営業方針をとる傾向があり、紹介や審査に時間がかかるため、設立直後の中小企業にはハードルが高いと言われます。
  • 外資系銀行: 英語対応が確実でオンラインバンキングも国際水準ですが、一般に各種手数料が割高です。例えば月額管理費用や海外送金手数料が高めに設定されているケースが多く、最低預金額や維持条件も厳しめです。ただし多国籍企業や外貨取引が多い場合、HSBCやStandard Charteredは英文残高証明取得やグローバルでの資金管理に強みを発揮するため選択肢となります。
  • ベトナム系ローカル銀行: ベトナム語中心の対応とはなるものの、支店数が多く手数料が安いのが利点です。国営・大手行であれば経営も安定しており、近年は英語対応スタッフも増えてきています。現地法人の多くは「メインバンク」として地元銀行の口座を1つは持つことが推奨されており、実際「1社に1つはVietcombank口座を持て」と言われるほどVietcombankは取引決済網として重要視されています。ローカル行同士なら送金が迅速・安価に行えるため、取引先の指定で口座を作る場合もあります。

以下、代表的な銀行ごとの特徴です。

  • ベトコムバンク (Vietcombank): ベトナム最大手の商業銀行であり、法人向けサービスも充実しています。多通貨対応に優れ、VNDだけでなくUSDやEURなど複数通貨の口座開設が可能で、国際送金や外国為替の利便性が高いと評価されています。手続きも比較的迅速で信頼度が高く、先述のように多くの現地企業が決済用メインバンクとしてVietcombankを利用しています。そのため「取引先からまずはベトコムで口座開けと言われる」ほど地位が確立しています。外国企業に対しても積極的で、英語による窓口対応や各種書類の英文フォーマットも用意されています。手数料は国営銀行標準的な水準で、例えば海外送金手数料は送金額の0.2%+20USD前後、口座維持費も月数十万ドン程度ですが残高条件で免除可能です(詳細は取引内容による)。最初の資本金口座も開設実績が豊富で安心感があります。
  • ベトインバンク (VietinBank): ベトナム産業貿易銀行とも呼ばれ、MUFG(三菱UFJ)と資本・業務提携している関係から日本企業向けサービスに力を入れています。日本語対応可能なスタッフ配置や、日本人顧客専用の商品パンフレットの用意など、きめ細かなサポートが特徴です。法人向けでは中小企業向けサービスが充実と評価されており、融資(事業融資)や銀行保証、給与振込サービスなどを幅広く提供しています。手数料体系も比較的競争力があり、たとえば国内振込手数料の優遇や、他行宛大量振込の割引制度などがあります。日系中小企業にとっては言語の安心感と手数料のバランスから有力な選択肢です。
  • BIDV (ベトナム投資開発銀行): インフラ投資や開発案件に強みを持つ国有銀行で、大型プロジェクトのファイナンス実績が豊富です。そのため建設・不動産・インフラ関連の日系企業がメインバンクとするケースもあります。ジャパンデスク設置銀行でもあり、日本人スタッフまたは日本語堪能な担当者が対応するためコミュニケーション面で安心です。特にハノイとホーチミンでは日本企業向けセミナーを開催するなど積極的な支援を行っています。BIDVは大規模企業やプロジェクト向けというイメージがある一方で、通常の決済口座や給与口座としてももちろん利用できます。手数料は一般的な水準ですが、口座維持に関しては条件に応じて無料化も可能です。投資案件での信用状(L/C)発行や外貨建て融資など、高度なサービスが必要な場合に頼れる銀行です。
  • 。顧客企業のニーズに応じてサービスをカスタマイズできる柔軟性があり、たとえばAPI接続による自社システムとの連携や、一括振込サービスのカスタムなども相談に応じます。デジタルバンキングに強く、オンラインでの国際送金やマルチバンク管理などIT面の機能が優れています。また多通貨管理にも長けており、1つのオンラインバンキングで複数通貨口座をシームレスに管理できる点も外資企業には魅力です。Techcombankは若い企業から大企業まで幅広い法人顧客を持ち、サービス品質の割に手数料は中程度でバランスが取れています。日系企業でもIT・サービス系の進出企業がメインバンクとする例があります。
  • ACB銀行 (Asia Commercial Bank): 民間の有力銀行で、ハノイやホーチミンなど都市部に強いネットワークを持ちます。中小企業支援に特化したサービスが評価されており、顧客サポートの良さに定評があります。特に設立間もない外資企業には口座開設がスムーズとの声が多く、資本金受け入れ口座からスタートする場合にも適しています。実際、日系の進出コンサル会社では「資本金口座も含めACBをおすすめ」と紹介されることがあり、多数の導入実績が報告されています。英語対応は基本的に可能ですが、日本語サービスはありません。しかし必要書類や手続き案内は丁寧で、初期の資本金振込~増資時のサポートまで親身に対応してくれるとの評価があります。
  • TPバンク (TienPhong Bank): 個人向けで触れた通りデジタル面が強みであり、法人向けにもオンライン重視のサービスを提供しています。法人インターネットバンキングでは取引承認ワークフローを柔軟に設定でき、複数署名者による承認フローや取引限度額管理など中小企業に適した機能を備えています。手数料は他の民間行と同程度ですが、新興銀行ゆえにキャンペーンで各種手数料無料といったプロモーションを行うこともあります。例えば一定期間、他行あて振込手数料無料や、外貨送金手数料ディスカウントなどです。日本語対応はありませんが、英語での法人窓口対応や英文フォーマット書類は用意されています。TPBankはIT企業やスタートアップとの取引も多く、オンラインで完結できる手続きが多いので、現地スタッフに任せてどんどん電子決済したい企業に向いています。

補足: この他、軍隊銀行 (MB) やサコムバンク (Sacombank)VIB銀行なども法人サービスを提供しています。MBは国防省系でセキュリティと安定性に定評があり、サコムバンクは南部での強みと中小企業融資の柔軟さが特徴です。VIBは外資との連携が多く国際基準のサービス提供を掲げており、外資企業向け口座開設もスムーズと言われます。いずれも日本語対応は基本ありませんが、英語では概ね問題なくコミュニケーションできます。

法人口座の手数料とオンラインバンキング

口座維持手数料: 法人名義口座でも、毎月の維持手数料や最低残高要件が設定される場合があります。多くの銀行では月数万ドン程度の管理費を設定していますが、残高が一定額(例: 100万VND)以上なら無料になるか、初年度無料キャンペーンを行っています。開設時にトークン発行料(OTPデバイス)や初年度年会費がかかる場合もありますが、これも銀行によって異なります。例えばVietcombankでは法人向けトークンに数十万ドンの費用が発生しますが、TechcombankはスマホアプリOTPで対応し無料、といった違いがあります。なお、初回の資本金口座開設時には少なくとも100万ドン以上を入金する必要があります。この金額はそのまま口座残高として保持され、維持費等に充当されたり、資本金の一部としてカウントされます。

振込・送金手数料: 法人口座からの国内振込手数料は取引額や取引頻度によって契約プランが用意されていることがあります。都度払いでは他行宛て1件あたり数千~数万ドンですが、月額定額で一定回数まで無料とするパッケージもあります。給与振込については一括データを渡すことで安価になるケースが多いです(給与振込手数料は1人あたり2,000~5,000ドン程度が目安)。海外送金手数料は個人口座と同様に送金額の0.2%前後+送金手数料(15~30USD程度)が一般的ですが、法人の場合は契約内容により多少優遇されたレートや手数料が適用される場合もあります。大口送金や国外への配当金送金には所定の書類(会計監査報告書や納税証明など)を提出する必要があるため、事前に銀行担当と打ち合わせておくことが重要です。

オンラインバンキング(法人): ベトナムの銀行は法人向けに専用のデジタルバンキングプラットフォームを提供しています。例えばVietcombankなら「VCB DigiBiz」というサービス名で、企業顧客に24時間のオンラインバンキングを提供しています。法人オンラインバンキングでは、残高確認・振込・給与支払い・税金支払いなどが可能で、複数承認者がいる場合の承認ワークフロー設定や、取引通知のメール配信先設定など、個人口座にはない機能があります。初回利用時にはOTPトークンの取得または担当者ごとのOTPアプリ登録が必要で、セキュリティは強化されています。多くの銀行では英語版の法人バンキング画面**を用意しており、操作マニュアルも英語で提供されています。日本語対応は期待できませんが、必要であれば日本人スタッフにログイン方法を教えるための資料などを用意してくれるケースもあります(BIDVやVietinのジャパンデスクなど)。なお、法人向けネットバンキング利用料として月額または年額の費用がかかる銀行もあります(例: 月5~10万VND程度)。これにはサービス利用料やトークン利用料が含まれます。小規模な会社であってもオンラインバンキングを導入しておけば、出納担当者がオフィスから振込処理を行え大幅に効率化できます。ベトナムでは紙の小切手よりも電子振込が主流であるため、法人でも口座開設時にネットバンキング契約を同時申請することをお勧めします。

よくあるトラブル・注意点

個人口座に関するトラブル: ベトナムの銀行で外国人が口座開設する際、支店や担当者によって対応が異なることがあります。ある支店では問題なく開設できたのに、別の支店では「外国人は開設不可」と言われた、といった事例も耳にします。これは行内規定の解釈違いや担当者の知識不足によるもので、長期ビザ・TRCを所持していれば開設可能ですので、諦めずに大きな支店やジャパンデスクのある支店で再チャレンジすると良いでしょう。また、ビザ残存期間が1年未満の場合は断られるケースもあるため、滞在許可の延長手続きを済ませてから口座開設に臨むのが無難です。

開設後のトラブルとしては、カード受取の遅延初期パスワードの有効期限切れなどがあります。キャッシュカードは通常1週間程度で発行されますが、支店からの連絡が来ない場合はこちらから問い合わせましょう。カード受領時にATMで暗証番号(PIN)を設定しますが、もし郵送で受け取った場合は必ずATMで有効化が必要です。また、ネットバンキングの初期パスワードも一定期間(例えば7日間)で期限切れとなることがあるため、早めに初回ログインしてください。

お金の持ち出し規制: ベトナムは外貨管理が厳しく、高金利で得た利息や預金を日本に持ち出すのが難しい場合があります。例えば現金の場合、一度に持ち出せるのは5,000米ドル相当額までと制限されており、それ以上は税関申告と出所証明が必要です。銀行送金で資金を国外に移す際も、送金理由を示す書類(給与送金なら労働契約書・納税証明、仕送りなら親族関係証明など)の提出を求められます。特に個人口座からまとまった外貨を送る場合、銀行の審査が厳しくなり時間がかかることがあります。トラブルを避けるには、送金前に銀行担当者に必要書類を確認し、正当な理由と証拠を揃えた上で手続きを行うことです。

為替リスク・銀行の信頼性: ベトナムドン預金は高金利ですが、同時にインフレや為替変動のリスクもあります。預金金利は今後下がっていく可能性が指摘されており、また中小のローカル銀行では経営が不安定で突如統合・破綻といった事態もゼロではありません。大手五行(Vietcombank, VietinBank, BIDV, Agribank, Techcombank等)の中から選ぶことでリスクを下げるのが無難です。万一銀行が破綻した場合でも、ベトナムでは政府系の預金保険が適用されますが上限額が低いため、安全性も考慮しましょう。

法人の場合の注意点: 設立直後に銀行口座を作る際、社判(会社の印鑑)をまだ作っていないと手続きに支障が出ることがあります。通常、ERC取得後に会社実印を作成し、それを用いて銀行口座書類に押印します。したがって会社印が用意できた段階で速やかに口座開設するとスムーズです。また、**資本金送金は期限(90日以内)**が決まっていますので、銀行口座開設が遅れると出資金の払込遅延という重大な問題に繋がります。設立手続き代行業者等と連携し、ERC交付後できるだけ早く資本金口座を用意しましょう。

法人では、代表者や署名権者が交代した際の銀行への届出も重要です。人事変更時に銀行に届け出を怠ると、旧代表者のサインでしか引き出しができない、オンラインバンキングの管理者が前任者のまま、といった不都合が生じます。特に代表者変更時は銀行所定の変更届と新代表者のID提出が必要になりますので、変更が決まったら速やかに銀行に相談してください。

最後に、言語の壁による誤解にも注意が必要です。契約書類はベトナム語が正文となるため、内容をよく理解しないまま署名すると、思わぬ手数料条件や制限事項を見落とす恐れがあります。ジャパンデスクのある銀行では日本語で説明してくれますし、そうでなくとも英語版規約をもらって確認するようにしましょう。特に融資契約や長期定期預金の条件などは細かい規定がありますので、慎重にチェックしてください。

日本人におすすめの銀行・口座タイプ

個人口座: 総合的に見ると、ベトコムバンク (Vietcombank)は信頼性・利便性の面でおすすめできます。ATM網の多さや安定したサービス提供に加え、英語対応も比較的整っているため初めての方でも安心です。一方、窓口対応が混雑しがちという側面もあるため、迅速なサービスを求める方にはTechcombankTPBankのような民間銀行も良い選択です。Techcombankはデジタルサービスが優秀で、ネットで完結できる手続きが多く、支店も洗練されています。TPBankはスマートなオンライン機能に加え、最低預金額が低く始めやすいメリットがあります。

日本語サポートを重視するなら、BIDVVietinBankが有力です。これらは日本語窓口・資料が整備されており、言葉の不安を解消できます。特にBIDVはハノイで日本人スタッフによるサポートを行っているため、ベトナム語ができなくても口座開設から送金相談までスムーズでしょう。金利面ではどの銀行も大差ありませんが、定期預金を活用するなら預入期間と自身の滞在予定を考慮してください。6か月以上滞在許可がないと定期預金は組めず、また定期の満期も滞在許可期限内に設定しなければなりません。

口座タイプとしては、VND建て普通預金口座を基本とし、必要に応じてUSD建て口座を追加するのがおすすめです。給与をUSDで受け取る場合や為替リスク分散のためにUSD口座を開くことも可能ですが、その際は給与支払い証明(労働契約書等)の提出が求められます。USD口座は利息が付かない(年0%がほとんど)ため、運用益を狙うならVNDで定期預金を組み、USD口座は一時的な資金プールや送金用と割り切るのが良いでしょう。

法人口座: 日系現地法人の場合、まずはVietcombankまたはBIDVにVNDの当座預金口座を開設し、主要取引の決済基盤とするのが定番です。どちらも政府系の大手で、取引先からの信頼も高く、ネットバンキングや法人向けサービスも安定しています。加えて、TechcombankやACBの口座をサブ的に開設する企業も多いです。Techcombankはオンラインでの資金管理を効率化できるため、IT企業やスタートアップに人気があります。ACBは資本金口座開設のしやすさから、最初の一社に選ばれることが多く、以後も運転資金口座として継続利用しやすい銀行です。

外貨取引が多い企業は、HSBCやStandard Charteredなどの外資系銀行の口座も並行して持つ場合があります。これらは英語で高度な銀行サービスを提供してくれますが、先述の通り手数料が高めなので、日常のVND決済はローカル銀行、国際送金や資本決済は外資銀行、と使い分ける戦略も一案です。

資本金口座に関して: 資本金の払い込み専用として開いた口座は、払い込み完了後にそのまま閉鎖してしまうか、運転資金口座に転用するかを選べます。特に理由がなければ、同じ銀行内で資本金口座を通常の当座預金口座に切り替えてもらうと管理がシンプルです。銀行によっては資本金口座と通常口座を別区分で管理し続けるところもありますので、手続き後の口座用途を確認しておきましょう。

最後に、銀行担当者との関係構築も重要です。日系企業向け担当が付く銀行(BIDVやVietinBank等)では、担当者に定期的にコンタクトを取っておくと融通が利きやすくなります。例えば急ぎの送金対応や書類不備のフォローなど、顔見知りになっているとスムーズです。また、何かトラブルが起きた際も日本語でヘルプを求められる安心感があります。日本人が代表を務める企業の場合、公私ともに銀行取引は欠かせません。信頼できる銀行を選び、上記のポイントに注意しながら口座開設・運用を行ってください。ベトナムの銀行口座を有効活用して、現地でのビジネスと生活を円滑に進めていきましょう。