ベトナムで日本人駐在員が住居を借りる際、企業の総務担当者は賃貸契約を法人契約で結ぶケースが一般的です。 特にハノイの高級コンドミニアム(分譲マンション)である Vinhomes Metropolis や D’.Capitale、The Nine、Indochina Plaza Hanoi などは、各部屋のオーナーが個人である「オーナー個別契約型」の物件です。こうした物件では部屋ごとに貸主(オーナー)が異なるため、法人契約の手続きや対応にも物件ごとに違いが生じます。本記事では、日本人駐在員や企業総務向けに、ベトナムにおける賃貸住宅の法人契約について詳しく解説します。物件オーナーが個人であることによる契約対応の差異、納税証明書とVATインボイス(レッドインボイス)の違い、短期契約の可否、そして退去時の精算ルールに焦点を当て、ポイントをご紹介します。
オーナー個別契約型コンドミニアムで法人契約する際のポイント
まず、「オーナー個別契約型コンドミニアム」とは分譲マンションの各住戸をそれぞれ別の個人オーナーが所有し賃貸に出している物件を指します。例えばVinhomesやD’.Capitaleといった高級コンドミニアムでは、部屋ごとに異なるオーナーが貸主となり、契約ごとに個別のオーナーと直接契約を結ぶ形になります。一方、サービスアパート(Serviced Apartment)は建物全体を単一の法人オーナーが運営し、家具家電やメイドサービスなどが付帯した「全室賃貸」の形態です。コンドミニアムの法人契約では各オーナーが契約相手となるため、契約条件や対応がオーナーによって異なる点に注意が必要です。
個人オーナーは不動産管理のプロではなく、「大家業」に不慣れなケースも多々あります。そのため、物件の管理や契約事務手続きにおいてオーナー自身では対応しきれず、不動産仲介会社(エージェント)が間に入って調整することが一般的です。また個人オーナーは法人経営のサービスアパートと異なり、公的な領収書であるVATインボイス(レッドインボイス)を自ら発行することができません(この点は後述します)。オーナーによっては賃貸借契約書の内容や要望も様々で、社宅規定に合わせた条件交渉(例:社名入り契約書や税金関連書類の発行義務の明記など)が必要になるでしょう。また、契約条件としてデポジット(保証金)や家賃支払方法にも特徴があります。一般的にコンドミニアムではデポジットは家賃の1~2ヶ月分を契約時に預け、問題なく契約満了すれば全額返金されます。家賃は3ヶ月分を前払いするケースが主流で、物件によっては1~2ヶ月ごとの支払いに応じる場合もあります。サービスアパートでは家賃に管理費や光熱費、清掃サービス代が含まれることも多いですが、コンドミニアムでは管理費や水道・電気代、インターネット代等は原則借主の自己負担となる点にも留意が必要です。
さらに、個人オーナー物件ではオーナーごとに契約への姿勢が異なり、法人契約に非協力的なオーナーも存在します。たとえば賃料収入の納税を面倒がって「税金を納めないので正式な領収書類は出せない」といったオーナーもおり、仲介業者側ではそうしたオーナーとの契約は避けています。法人契約を結ぶ際は、信頼できる仲介会社に法人契約に理解があり納税対応もしっかり行ってくれるオーナーを紹介してもらうことが大切です。
納税証明書とVATインボイスの違い
ベトナムで法人契約をする場合、家賃を会社経費として計上するために「VATインボイス(レッドインボイス)」もしくは「納税証明書」の提出が求められるのが一般的です。 VATインボイスとは、貸主が税務署認可の正式な領収書(付加価値税10%を含むインボイス)を発行するもので、日本の領収書に相当します。一方、納税証明書とはオーナーが賃料収入に対して税金(個人事業税やVAT相当分)を納付したことを証明する税務署発行の書類です。
サービスアパートなどオーナーが法人登記されている場合は、契約上家賃にVAT(付加価値税)10%が上乗せされ、支払いごとに法人名義のVATインボイス(赤色の領収書)が発行されます。一方、コンドミニアムの個人オーナーの場合は家賃にオーナーの納税分が含まれているかどうか(=VATインボイスを発行してもらえるか)が重要な確認ポイントになります。企業が駐在員の家賃を経費処理するには公的な証憑が必要で、原則として社名宛のVATインボイスが必須となるからです。しかし前述のように個人オーナーにはVATインボイス発行権限がないため、通常はオーナーが税務署に賃料収入の申告・納税を行い、その納税証明書を発行してもらう形で対応します。この納税証明書(税務領収書)があれば、借主である法人はその家賃を正式な経費として計上し、場合によってはVATの控除を受けることも可能です。実際、ベトナム税務当局の通達でも「適切なVATインボイスがない場合、納税証明書をもってVAT控除の証憑とすることができる」と確認されています。
要するに、法人契約では「VATインボイス」または「納税証明書」のどちらかが企業の経費処理上必要になるということです。契約時には、家賃に含まれる税金の扱いやこれら書類の発行タイミングを明確に取り決めておくべきです。理想的には「貸主は毎月(または四半期ごと)に借主名義のVATインボイスを発行すること」あるいは「貸主は賃料収入について法定の納税を行い、速やかに納税証明書を借主に提供すること」といった条項を契約書に明記し、履行を求めます。もしオーナーが納税を怠り領収書類を発行してくれない場合、法人側は家賃を正当に経費計上できなくなります。そのため「レッドインボイス(納税証明書)は出せない」というオーナーとの契約は避けるべきであり、契約前の段階で仲介業者を通じてオーナーが税金対応に応じる意思があるかを確認しておくことが重要です。
短期契約は可能か?
ベトナムのコンドミニアムや戸建て物件では、基本的に契約期間は1年間が前提となり、短期(半年未満など)の契約は難しいと考えておいた方が良いでしょう。多くの個人オーナーは頻繁に入居者が入れ替わることを嫌がり、「最低1年」は借りてくれる長期契約者を優先する傾向があります。実際、内覧の順番に関係なく「より長期で借りてくれるテナント」を選ぶオーナーも多く、短期契約希望者は敬遠されがちです。短期間で入居者が変わると、その都度公安への居住登録や税申告など煩雑な手続き(場合によっては関係各所への謝礼等も含む)の手間がオーナー側に発生するためで、オーナーにとって短期貸しのメリットが少ないのです。
現在の慣習では、コンドミニアムでは基本1年契約、途中解約はデポジット(敷金)の没収=違約金というのが標準的なルールとなっています。契約書でも「契約開始から○ヶ月間は途中解約不可」や「途中解約時は家賃1ヶ月分の違約金を支払う(もしくは保証金を放棄する)」といった条項が盛り込まれるのが一般的です。例えば「初期6ヶ月間は解約できない」あるいは「途中解約時は家賃1ヶ月分相当のペナルティを支払う」といった取り決めです。そのため、契約満了前に日本への本社帰任や他国への転勤命令が出た場合は、原則としてオーナーに1ヶ月前までに通知し、違約金1ヶ月分を支払えば解約可能という条件で契約しているケースが多いです(契約内容によっては3ヶ月前通知かつ転勤辞令提示でペナルティ免除などの例外もあります)。よく「途中解約したらデポジットが戻りませんか?」という質問を受けますが、その場合のペナルティ額がちょうど保証金(家賃1ヶ月分)と同額であることが多く、結局デポジットが返金されない結果になるだけのことです。
以上のように、コンドミニアムでは基本的に短期契約は難しいものの、ごく稀にオーナー側が短期利用を許容してくれるケースもあります。例えば次の入居までのつなぎで数ヶ月だけ貸してくれる、あるいは賃料を割高に設定する代わりに6ヶ月契約に応じるといった例ですが、あくまで例外的対応と言えます。赴任直後で「まずは短期間住んでから本格的な住まいを決めたい」というニーズがある場合、現実的にはサービスアパートなど短期契約を受け入れている物件を検討することをおすすめします。サービスアパートや小規模アパートメント(オーナー常駐型物件)であれば1ヶ月から3ヶ月程度の短期契約に対応可能な所も多く、契約期間によって家賃が割高になることはありますが、出張や仮住まい用途には適しています。一方、コンドミニアムの場合は前述の通り短期利用は基本的に選択肢に入れにくいため、赴任期間や利用目的に応じて物件種別を検討することが重要です。
退去時の精算ルール
契約期間が終了し退去する際には、デポジット(保証金)の返金を含めた精算手続きをオーナー(または物件管理会社)と行います。退去時の一般的な精算手順は次のとおりです:
- 解約通知 – 契約書に定められた期間(通常は退去の30日前まで)に、建物の管理事務所またはオーナーへ契約終了の意思を文書(書面やメールなど記録に残る形)で通知します。事前通知の期限を守ることが円満退去の第一歩です(期限を過ぎると違約金の発生につながる場合もあります)。中和不動産で仲介契約をした場合は弊社からオーナーへ通知をいたします。
- 退去立ち合い – 退去当日、管理事務所のスタッフやオーナー立ち合いのもとで室内のインベントリチェックを行います。入居時に備え付けられていた家具・家電の紛失や破損箇所がないか、通常使用による消耗以上のダメージがないかを確認します。中和不動産で仲介契約をした場合は弊社スタッフが退去精算に立ち会いをいたします。
- 費用清算 – 最終月までの未払い家賃や光熱費(電気・水道・ガス代)、インターネット・ケーブルテレビ代などの公共料金の清算を行います。また、立ち合いで判明した設備の故障・損傷について入居者負担となる補修費があればこの時点で精算します。
- デポジット返金 – 上記1~3のすべての精算が完了した後、オーナーからデポジット(保証金)が返金されます。通常は現金もしくは振込で全額が返却され、これをもって契約終了となります。中和不動産で仲介契約をされた場合はデポジット返却までサポートいたします。
基本的に、デポジットは契約満了時に問題がなければ全額返金されるケースがほとんどです。契約上も「デポジットは未払い金や故意過失による損傷の修理費に充当し、問題がなければ退去時に返還する」と定められており、入居者に過失が無ければスムーズに保証金は戻ってきます。逆に言えば、退去時に家賃の滞納や光熱費の未払いが残っていたり、借主の過失による備品破損が見つかったりした場合は、その費用分がデポジットから差し引かれて返金されることになります。オーナーとの認識相違を防ぐためにも、退去時には領収書やチェックリストを用いて清算内容を書面で確認すると安心です。
なお、途中解約で退去する場合は上述の通り違約金が発生し、デポジットがそのまま違約金に充当されて返ってこないケースが一般的です。例えば1年未満で解約する場合は保証金(家賃1ヶ月分相当)を放棄する条件になっていれば、退去時精算でその分は返金されません。こうした取り決めも契約書に明記されていますので、退去時になって慌てないよう契約締結時に途中解約時の精算ルールまで把握しておくことが大切です。
まとめ
ベトナムのオーナー個別契約型コンドミニアムで法人契約を結ぶ際は、契約相手が個人オーナーであることによる注意点を押さえておく必要があります。契約条件や対応はオーナーによって異なるため、信頼できる仲介会社のサポートのもと交渉・確認を行いましょう。特にVATインボイス(レッドインボイス)または納税証明書の取得は会社経費処理上不可欠であり、契約時にオーナーの税金対応を取り決めておくことが重要です。短期契約については基本的に「1年未満不可、途中解約時は違約金発生」と考え、赴任期間に合った物件種別を選ぶようにしてください。最後に、退去時の精算ルール(通知期限やデポジット返金条件など)も契約段階で理解しておき、円滑な退去手続きに備えておくと安心です。ベトナムならではの契約慣行を事前に把握し、適切に対応することで、企業の社宅運用もトラブルなく進められるでしょう。